タイの証券取引委員会(SEC)の元副事務局長ティプスダ・タヴァラマラ氏は、金本位制から変動為替への変遷、さらに現在のブロックチェーン技術による通貨までの発展を見てきた人物だ。

さらに証券取引委員会の元事務総長という規制当局側の立場でありながら、ブロックチェーンの可能性を確信した稀有な存在でもある。

暗号通貨先進国としてのタイ

2018年以来、タイ政府は暗号通貨規制に対し積極的に取り組んできた。それによりタイはテックコミュニティ、ブロックチェーンコミュニティで人気を集めた。

2018年6月、タイのSECはICOによる資金調達のために使用できる7つの暗号通貨を正式に承認した。さらに同年8月にはタイ中央銀行はDLT技術を使ったタイ金融インフラの効率化を目指し、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の「Inthanon」プロジェクトを発表した。

またタイ財務省は2019年1月から現在までに、暗号通貨取引所、暗号通貨ブローカー、およびディーラー、計5社に暗号通貨事業運営ライセンスを許可し、2019年3月にはタイSECは同国初のICOポータルを承認した。

現在タイでICOプロジェクトを立ち上げるには厳格な審査、デューデリジェンス、そしてKYCプロセスを満たさなければならなくなった。

こうした規制整備のおかげで、暗号通貨を中心とするコミュニティは、シンガポールや香港などの他の暗号通貨「ホットスポット」の代わりにタイを選ぶようになった。そのためタイのブロックチェーンエコシステム発のミートアップやカンファレンスなどのイベントや企業の立ち上げが増え続けている。

ブロックチェーンは世界経済を変えるという確信

タヴァラマラ氏は暗号通貨について知った当初、特に興味を持つことは無かったという。

「記憶は曖昧だが、2013年、2014年頃に暗号通貨について聞いたことがあったが、当時私はあまり興味を持たなかった。」

しかしドン・タプスコット氏の著作「暗号通貨の時代、ブロックチェーンレボリューション」(The Age of Cryptocurrency and Blockchain Revolution)を読んだことをきっかけにブロックチェーン技術に対して興味を持ち始めた。

「これまでこのような観点からブロックチェーン技術を見たことはなかった。ブロックチェーン技術を使っていかなる媒介者も無くして各国経済を結びつけることで世界経済を変えることができる、ということに気づき始めた。」

それ以来、彼女のブロックチェーンに対する情熱が燃え上がったという。ブロックチェーンについて調べることがタヴァラマラ氏の趣味の1つになるにつれ、彼女はブロックチェーン技術が資本市場における取引を変え、ピアツーピア取引を簡素化することができると確信し始めた。

タヴァラマラ氏は、1987年にタイ中央銀行で金融機関監督部のアナリストとしてキャリアをスタートしたが、4年後に退職し家業の手伝いを始めた。その後、タイのSECが設立された1年後の1993年にタイSECに入社し、10年間に亘り証券監視員として従事し、現在ではタイのフィンテック規制を担う人物となった。

タイのフィンテックにおけるマイルストーン

タイのフィンテックを大きなムーブメントとしていく重要なマイルストーンは、タイ財務省がタイ証券取引所のライブ取引プラットフォームと暗号通貨取引所にライセンスを与えたことだった。

タイ財務省は元々スタートアップによる開発やイノベーションに対して前向きな姿勢を示していたが、この出来事がきっかけとなり、2018年5月にデジタル資産に関する王室令が施行され、財務省はSECの評価を参考に暗号通貨取引所5社に対しライセンスを授与した。

このようにタイにおける暗号通貨規制が大きく前進する中、タヴァラマラ氏はtZEROSTOに参加しようとしたことで、初めて彼女自身でそのプロセスを経験したという。結果として彼女がtZEROに投資することは出来なかったが、仲介者の重要性について新たな確信を持った。

「この経験を通じて、私は仲介者がまだまだ利便性を促進する媒体としての役割を持っていることを学んだ(中略)しかしその仲介者は信頼できるものでなければならず、彼らの使うセキュリティシステムは高い基準のものでなければならない。」

暗号通貨コミュニティはSECと活発な議論を

タヴァラマラ氏は、既存証券のトークン化が進み、時が経つにつれ伝統的な資産とデジタル資産の区別は徐々になくなると確信しているという。彼女はブロックチェーンプロジェクトに向けてこのように語った。

「最新のアイデアが妨げられてしまえば、才能のある人々は他へ行ってしまう。これは国家にとっても良いことではないが、SECがブロックチェーンのような新しい技術を理解するまでにはたいてい時間がかかるという事実を理解しておいた方が良い。(中略)世界は変化している。その変化を恐れてはいけない。またSECが常に正しいとは限らない。本質を理解した上で(SECと)議論して欲しい。」