野村HDが野村総合研究所(NRI)と設立した合弁会社「BOOSTRY(ブーストリー)」が、有価証券などをデジタル化し、さまざまな権利の発行や取引を可能とするプラットフォーム「ibet」を公開した。

改正金融商品取引法を見据えて

株式や債権、不動産などの所有権や配当を受ける権利をトークンの形で表したセキュリティ・トークン(デジタル証券)は、2020年4月に予定されている改正金融商品取引法の施行により、「電子記録移転権利」として位置付けられ、規制のもと法的に取扱が可能となる。今後、デジタル証券市場が活性化や拡大することへの期待が高まっている。

同社は2019年9月に、野村ホールディングス66%、野村総研34%の出資比率で設立。事業内容は、ブロックチェーン技術を用いた有価証券等の権利を交換する基盤の開発、および提供事業(コンサルティング、ITサービス提供等)としており、取締役社長には佐々木 俊典氏。資本金は資本金は11億7,500万円(資本準備金含む)だ。

「ibet」上でトークンとして発行される様々な権利と取引方法は、ブロックチェーン上のスマートコントラクトによってプログラム化される。

既存事業をディスラプトする

「ibet」のWebサイトによると、トークンとして「社債」「会員権」「サービス利用権」などが例としてあげられており、金融商品としては「社債」から取組をはじめるようだ。

現在企業が社債を発行する場合、発行体(企業)と投資家の間には、野村HDをはじめとする様々な金融機関が引受や取次として存在している。金融機関は利払いなどの決済事務代行や信用保証、投資家への販売などを手掛け、その対価として手数料をもらうビジネスモデルとなっている。

「ibet」では取引市場のこういった中間者の役割をプログラムにより実現することで、売り手と買い手が安全安心なデジタル上での直接相対取引を実現するという。

つまり、「ibet」は野村HDにとって、既存事業をディスプスト(破壊)していると取ることもできるだろう。

Bloombargが発表した2018年度国内債券市場における引受ランキングでは、野村証券はみずほ証券に続いて国内第2位となっており、引受総額は約2兆1400億円、シェアは約20%。日銀の金融緩和政策を発端とした長期的な低金利を背景に債券発行市場は活発だ。

金融業界のコンプライアンス問題

ではなぜ、野村HDは自社の既存事業を破壊するような動きをとっているのだろうか。

そこには、新しいデジタル証券市場形成の裏に、既存金融業界が抱えるコンプライアンス問題に関連する事業リスクが透けてみえる。

2019年初、野村の社員らは東証の市場再編で生まれる新市場の上場基準の情報をもとに、機関投資家ら33の顧客に対して取引を持ちかけたという。一部顧客には株価に影響が出そうな銘柄の一覧も添えた。

この情報は、野村グループの社員が委員を務める東証の有識者懇談会内部の「重要な情報」だったといい、金融庁は一連の行為を「早耳情報を利用した営業行為」と認定。「資本市場の公正性・公平性に対する信頼性を著しく損ないかねない行為」と指摘し、2019年5月28日、金融庁は野村HDと野村證券に対し、業務改善命令を出した。

また2012年には、公募増資を巡るインサイダー取引で業務改善命令を受けている。

情報漏洩が発覚して以降、2019年4-9月期においては、国内債券引受では第5位、シェアは約17%と低迷している。足元では回復基調ではあるものの、野村証券が社債引受主幹事から外される取引先も出てきており、少なからず影響が出ている状況のようだ。

「貯蓄から投資」という大きな流れの中で、投資家保護や健全な市場形成のため、証券会社に求められるコンプライアンスは年々厳しくなっている。各金融機関はEラーニングなどの社内教育を積極的に行い、コンプライアンス意識の醸成を努めているものの、世の中の要求に追いついていない可能性がある。

特に大手金融機関においては、数万人に及ぶ従業員のコンプライアンス意識を改善するのにかかる費用と時間は膨大だ。また過去起こっているようにコンプライアンス問題が発覚した場合、会社が受ける信用・ブランドの失墜による業績への影響は計り知れない。

野村HDは、このような事業リスクを抑制するために、「ibet」など積極的にブロックチェーンなどに投資をし、既存事業の破壊している側面もあるだろう。


Boostry:https://boostry.co.jp/
ibet:https://ibet.jp/