フェイスブックの独自仮想通貨リブラ(Libra)」がホワイトペーパーを発表してから約3週間が経過した。フェイスブックによれば、リブラは法定通貨や公債に投資する準備金(リザーブ)を裏付けとした「ステーブルコイン」だ。

「ステーブルコイン」については各国で様々な見解や要件がある。
例えば米国では、信託銀行やカストディの使用、資金移動業のライセンスを取得するなど一定要件があり、その要件を満たしさえすれば「ステーブルコイン」として成立する。

一方で日本においては法的な要件が定まっていない。また日本の仮想通貨取引所では実験的なZENを除き「ステーブルコイン」の取り扱いがないため、実際のところあまり議論が進んでいないというのが現状だ。

フェイスブックが発表したリブラは、現在世界的に大きな論争を巻き起こしており、日本においても「ステーブルコイン」の議論を一歩進める必要があるだろう。

The Nodist編集部では、「日本におけるステーブルコイン」に焦点をおいて、日本ブロックチェーン協会(JBA)が主催したリブラに関するレクチャーをもとに著名弁護士から話を聞いた。

そもそもなぜこれほどまでに「ステーブルコイン」に注目が集まるのか。

「ステーブルコイン」の基礎知識や可能性、日本における「ステーブルコイン」の法的な立ち位置を整理した上で、リブラが国内法に乗っ取って流通する可能性を全3回にわけて検証する。

著名弁護士

  • 斎藤創氏(創・佐藤法律事務所):日本ブロックチェーン協会(JBA)主催「Libraレクチャーイベント〜リブラならびにステーブルコインの日本法分析〜」
  • 河合健氏(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)※ステーブルコインの法的分析のみ
  • A氏(匿名著名弁護士)

そもそもなぜステーブルコインが登場してきたのか、その背景の一つとして現行の金融システムでは国境を越えて送金をする際、非常に時間とコスト(手数料)がかかるという問題がある。

そのため、仮想通貨にはもともと送金・決済手段としての期待があった。しかし、最初に投機対象として注目されてしまったため、ビットコイン価格の乱高下からもわかるように、仮想通貨が決済手段となるために不可欠な価格の安定性という問題が生じるようになった。

また仮想通貨自体に技術的な問題がある点も「ステーブルコイン」が登場した背景だ。

技術的な課題

仮想通貨はブロックチェーン技術をもとに開発をされているが、マウントゴックスコインチェック事件のように仮想通貨にはハッキングに合うなどリスクを完全に排除できておらず、様々な技術的な課題がある。一方でステーブルコインもハッキングに合う可能性がないわけではない。例えばウォレットから引き出されるといった場合が考えられる。

ボラティリティに関する課題

また、仮想通貨はその価格変動が大きいため、価格の不安定さから実際に決済手段とするには難しいのが現状だ。例えば取引相手から1BTC=100万円の時に1BTCを送金してもらったとしても、翌日でその価値が半値になってしまうという事態が起こりうる。また店舗で利用しようにも価格が一定ではないため、暗号通貨建てで考えた場合、前日と比べて商品の価格が2倍になってしまうという可能性がある。

上述のように仮想通貨が送金・決済手段となるためには価格変動の大きさといったボラティリティという克服すべき課題がある。このような課題を解決するために「ステーブルコイン」は登場した。

ステーブルコインとは

ステーブルコインとは、一般的には「価格変動(ボラティリティ)の著しく少ない通貨」を指し、価格が一定である通貨のことを指す。

「ステーブル」とは「安定した」という意味だが、著名弁護士であるアンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合氏によれば「ステーブルコイン」を考える上で、「ステーブルは何に対して安定しているのか」ということをしっかりと考える必要があるとし、大きく2つに分類する。

  • ペッグ型:ある特定の通貨に対してステーブル
  • 資産型:裏付け資産となる対象そのものの価値にステーブル

またステーブルコインは担保のあるものと、全く担保の無いものに分類できる。

ステーブルコインといっても様々なものがあるため、一括りで考えるのではなく、それぞれの具体的な仕組みが日本法上どうなのかを分析する必要がありそうだ。

JBA主催のレクチャーにおいて、斎藤氏はステーブルコインを下記の3つに大きく分類した。

ステーブルコインの分類

  1. IOU型:【True USDUSD Tether等】
    発行体がトークン保有者に対して一定の金額で償還することを約束、法定通貨や別の実物資産(金・原油など)により価値が裏付けされる。
    法定通貨の価格に連動し、中央銀行や対象となる国の政策などに影響を受ける。
    ※準IOU型【Libra等】:発行体とトークン保有者が直接やりとりしないケースもある(河合氏)
  2. オンチェーン担保型:【Maker DAO
    イーサリアムやビットコインなど仮想通貨や複雑なスマートコントラクト、異なる種類のトークンなどを担保として価格の安定性を確保する。仮想通貨の価格に影響を受けるため実際はボラティリティの課題が残る可能性がある。
  3. 通貨発行益モデル:【Basis
    担保がなく、貨幣数量説に基づいて発行される。トークンの価格を基軸通貨や他の基準値と比較して安定させるために、トークンの需給に応じて発行量を調整する。

ただ今回の検証においては「リブラ(Libra)」はIOU型に近いため、IOU型を「ステーブルコイン」と仮置きして話を進めたい。

ステーブルコインのメリット

ステーブルコインは以下のように大きく3つ上げることができる。

  1. 価格の安定性
    IOU型のステーブルコインの場合、市場から一定の信任を得ている法定通貨などを担保としているため、その法定通貨同等の価格安定性を得ることができる。価値が安定していることでユーザーは安心して預金や送金・決済手段として利用ができる
  2. 資産価値
    政治や経済不安定に伴うインフレ、民族対立、紛争など地政学リスクの高い新興国の法定通貨は価格が安定していない。また通貨量も多くないことからネガティブなニュースや事件で通貨価値が下落し、ハイパーインフレなどのリスクが発生する可能性もある。このような状況下にある国の場合、ステーブルコインは資産の避難先としての役割が生じる。また同様に暗号通貨同士でもICOしたばかりの価格が乱高下するような仮想通貨の逃避先としても「ステーブルコイン」は機能する。
  3. 国境を超えた法定通貨の代替機能
    ステーブルコインは両替の必要性が無く、ボーダーレスな決済手段として利用可能となる。法定通貨は、国によって異なる通貨が利用されているために、他国の通貨を利用する際には両替が必要だ。また現行金融システムの海外送金ではSWIFT決済が一般的だが非常に時間がかかる(最短でも数日)上に手数料も高い。しかし、ステーブルコインのユーザー同士ならばはるかに短時間かつ低コストで簡単に送金が可能となり、世界のどこからでも利用できる。また、他の暗号通貨と異なり価格が安定しているために、価値の毀損リスクも抑えることができる。

ステーブルコインの将来性

2019年7月現在、いまだにペッグの対象となっていない法定通貨も多く、今後も様々な法定通貨を担保とするコインの誕生が想定される。またフェイスブックの独自仮想通貨「リブラ(Libra)」のようにコンソーシアム型のステーブルコインも登場してきている。

法定通貨だけでなく暗号通貨やプロジェクト、エコシステムごとに今後もステーブルコインが出てくる可能性は高い。大小様々なステーブルコインが市場で共存していく形で市場は拡大していくだろう。